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平和の灯
中山 のり子
千年近く昔のお話です。
トルコ東部の山の中腹、真っ暗な森の中から仄白い光をまとって一頭のユニコーンが現れました。注意深くあたりを眺め、やがて麓に向って飛ぶように駆けて行きました。
目指す先には、豆粒ほどの黄金色の灯が揺れていました。
麓の小さな草原の隅っこで心細げに佇む少女がいました。彼女は左手にランタンを、右手に箒を持っていました。
ユニコーンは首を傾(かし)げ、優しげに尾を振って少女に近づきました。
少女はほっとした様子で、ユニコーンに寄り添いました。
中世のその頃、ヨーロッパでは魔女狩りが盛んに行われていました。
秘伝の薬で人々の病や傷を治したり、優しく寄り添って信望を集めたりする女性を、時の権力者たちが己の権力の失墜を恐れ、『魔女』と称して捕え処刑したのです。
少女の母も身の危険を感じ、ランタンと秘伝の書を箒の竹筒に入れて、少女に託しました。
「ランタンの灯は、どんなことがあっても、決して絶やさないようにね」
そう言い残して、捕われて行ったのです。
少女はユニコーンに、
「私ね、何かに導かれてここまで来たの」
と、言いました。
ユニコーンも、
「少女の持っている灯は平和のシンボルだから、決して絶やさないように二人で守って行きなさい」
と、宇宙から放たれるような厳(おごそ)かな声を聞いて、ここにやって来たのです。
伝説によると、ユニコーンはあの〝ノアの方舟(はこぶね)”には乗らなかったと言われています。ということは存在しない筈です。だのにここにいて、少女と巡り逢ったのです。
そこに、目には見えない宇宙を統(す)べる大いなる存在が感じられます。
二人は湖の辺りの小さな村に住むことにしました。温和で純朴な三十人足らずの村人たちと仲良く暮らしました。
少女は秘伝の薬で村人たちを助け、村人たちは少女に日常の様々なことを教えました。
ユニコーンは村人たちの手足のように働きました。村人たちもユニコーンを愛し、毛並みの手入れを怠らなかったので、益々美しくなりました。
二人が村に来てから湖での漁獲量は増え、畑の作物も豊作続きでした。村人たちは平和の灯のお蔭だと喜びました。
次第に平和の灯を守ることは、村の最も大事な約束ごとになり、灯はいつも黄金色に輝いていました。
大いなるお方の見込みどおり、二人は灯を守り抜きました。彼らの死後も村人たちの子孫が守っていることでしょう。
不思議な力を持つ平和の灯を、今、どこにあるのか探してみませんか?
大いなるお方も、絶え間ない人間のいざこざを長い間見てこられてきたからこそ、それを望んでおられることでしょう。
もし平和の灯が見つかれば、未来が少し明るくなると思いませんか?
そう言えば、ユニコーンの居た場所は、方舟が漂着したと言われるアララト山の近くだったようです。
やはりユニコーンも、方舟に乗っていたのかも知れません。
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